夏の定期演奏会まで2か月を切った。メイン曲となる「ドヴォルザーク交響曲第9番『新世界より』」のメンバーはオーディションで選ばれ、席順は学年と関係なく実力で決まるという。勝ち取るのは誰か?審査する側となる3年生、コンサートマスターの原田はワクワクしていた。そして青野たち1年生の前に現れた見慣れぬ先輩。たまにしか部活に来ていない2年生の羽鳥だ。ヴァイオリンを手にした羽鳥は、いきなりコンマス席に座った。
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オーディション3日前。部員の誰もが練習に打ち込む中、青野と佐伯は数学の補習を受けていた。2人そろって小テストが赤点だったのだ。早く部活に参加したい一心で、2人は課題に取り組む。大急ぎで駆けつけた音楽室では、合奏練習がもう始まっていた。鮎川先生は、オーディションでの演奏次第で、学年に関係なく席順を決める考えのようだ。コンサートマスターの原田も、1・2年生を競わせたいと思っていた。そして迫る決戦の日。
定期演奏会のメイン曲となるドヴォルザーク「交響曲第9番『新世界より』」演奏メンバーのオーディションが始まった。廊下に漏れるヴァイオリンに、順番を待つ部員たちの緊張が高まる。佐伯とどちらがよい席を勝ち取るのか?青野は注目されていた。ライバルに勝ちたい、そして鮎川先生に自分を認めさせたい―。青野の番が訪れる。奏者に背を向けて座る審査員の3年生。しかし音が響いたその瞬間、全員が誰の演奏なのかを理解した。
オーディションの結果、青野は佐伯より上の席次を勝ち取ることができた。ところが鮎川先生に、技術は高いが青野だけの音色が見えないと言われてしまう。幼少時に予選敗退したコンクールで、つまらない演奏と父に言われた記憶がよみがえる。焦りと迷いの中、とにかくヴァイオリンを弾きたい。しかし期末テストを控え、部活動は停止期間に入った。テストの成績が悪い部員は演奏会に出ることができない。青野はテスト勉強に取り組む。
夏休みに入り、合奏練習が本格的に始まった。青野は、大勢で音を合わせることの難しさを痛感する。1人ずつの音程やリズムは正しいのに、合奏すると音がまとまらない。しかしその時、コンサートマスターの原田が、弓や身体の動きを使って合図を送り始めた。ゆるやかに陽気で楽しく―。皆の呼吸が徐々に揃って、演奏がひとつになっていく。オーケストラの全員、そしてすべての楽器の音と向き合う原田の手腕に、青野は感銘を受ける。
定期演奏会に向けて合奏練習に熱が入る中、青野が部活に姿を見せない。鮎川先生によると、青野の母が倒れ、入院したのだという。心配で今ひとつ身が入らないまま、練習は進む。青野の母をよく知る律子は、特にショックを受けていた。何度かけても繋がらない電話。じっとしていられず、家に様子を見に行くことを決める律子に、佐伯、ハル、山田も加わる。青野は、皆の突然の訪問に驚きながらも、ぽつぽつと自分のことを話し始めた。
「あいつとケンカしてくる」と秋音に宣言した青野。青野と佐伯は、人気のない夜の公園で向き合っていた。あの夜、佐伯が打ち明けた事実を、青野は許すことができない。謝罪の言葉を繰り返すばかりの佐伯に、青野は感情をぶつける。佐伯との演奏が楽しかったこと、自分に無いものを持つ佐伯を妬んでいたこと―。そのすべてを裏切られたように、青野は感じていた。「佐伯直として、俺の前に立って話せ!」。青野は佐伯を問い詰める。
ついに迎えた定期演奏会の日。部員たち自身の手で会場となるホールに楽器や機材の搬入が行われる。舞台袖に並べられる楽器ケース。最後の舞台となる3年生は寂しさを感じていた。開演を待つ観客の中には、青野の中学の恩師・武田先生の姿があった。青野の母と出会った彼は、指揮者の鮎川先生と同級生だった高校時代、ともに部活に打ち込んだ日のことを語る。そして舞台裏では本番を前に、部員たちに向けた3年生の挨拶が始まった。
定期演奏会は「カルメン」で幕を開けた。オーケストラ部で楽器を本格的に始めた律子にとって、人前での演奏は未知への挑戦だ。同級生と対立し保健室登校していた中学の頃。ヴァイオリンとの出会い。演奏に、これまでの歩みが重なっていく―。ハルの出番となるチャイコフスキー「くるみ割り人形」。3年生メインのヴィヴァルディ「四季」。それぞれが音とともに過ごした時間、悩みや葛藤、心の交流、その全てをのせて演奏会は進む。
故郷チェコを離れ、アメリカ大陸に渡ったドヴォルザークが作曲した「交響曲第9番『新世界より』」。オーケストラ部員たちは、それぞれの演奏の中にそれぞれの“新世界”を思い描いていた。ドイツで生まれ育った佐伯にとっては、日本こそが新世界。人と音を重ねて表現していく難しさと喜びを高校で初めて知った青野にとっては、オーケストラこそ新世界だ。全員の音が一体となって、海幕高校オーケストラ部の新世界への旅は始まる。
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